第3回育成者権侵害対策研究会議事概要
平成14年11月22日(金)14:00〜16:00
農林水産省生産局第1会議室
1 農林水産省挨拶
2 資料説明(事務局)
・育成者権侵害対策研究会報告(案)
3 各委員からの意見陳述
(委員)
5頁の4の最後の段落「また、現実の農産物貿易の実態を踏まえ、事業者に過度の負担とならないようにも配慮すべきである。」とは具体的にはどういうことか。
(委員)
例えばDNA検査を全商品に課すとなると大変なことになる。検査に時間がかかるようでは生鮮品は傷んでしまうし、迅速通関は不可能となる。また、この品は不法なモノではないという証明を出せというような要求はやめてもらいたい。これは輸入だけでなく、国内流通についても同じ話。
(事務局)
水際規制という点では、農産物についても関税定率法で取り締まるだけではなく、関税法で取り締まるというスキームもあり得る。しかし、そうなると証明書の添付が必要となるなど、それこそ過度の負担を強いることになってしまう。そのあたりを考慮して書いたつもり。
(委員)
委員は税関は疑わしきは罰せずにすべきということか。
(委員)
他の知的財産権についてのチェックも同じ事と思うが、税関では違反について蓋然性が高い場合に検査するというのが一般的ではないのか。そういう趣旨で申し上げた。例えばブランド品のバックなども違法品でないことの証明を付けさせているとか、全量検査ということは無かろう。この地域から輸入されるモノは怪しいとかいったものが対象になっているのだろう。証明や検査の要求をやたらと求めていくのは現実の流通に障害が生じる。そのような混乱が起きるものは避けて欲しい。
(委員)
輸入者全てにDNA検査をかけることなど想定していない。蓋然性があって、権利者から申し立てがあってという場合にDNA検査をするものと思うが。蓋然性をどこまで求めるかということがポイントかと思う。
(事務局)
権利者にしてみれば不正に入ってくるものは全て止めろということになろうが、輸入されるもの全てについてチェックすることなど現実的ではない。現在、関税定率法の改正について財務省と交渉中だが、技術的には可能ということで話は進めている。
(座長)
すると、「また・・・」以下は文章と実態がずれているように思う。現実の農産物流通の実態を踏まえというような文章になるのではないか。
(事務局)
実際、財務省からも育成者権侵害物は腐りやすい生鮮品が多いのではないかと言われている。なお、生鮮品は、「また・・・」の段落ではなく、「この場合には・・・」の段落の話と考えている。
(委員)
「また・・・」の部分は、一般的に輸入するものまで全て(侵害品でないことを)証明するということになると確かに過度の負担となる。生鮮品については上の段落で読めると考える。過度の負担というと、トレーサビリティーのことで(流通等の)業界はこの手のことをかなり懸念しているものと思う。世間は(食品の素性等について)とにかく全て白でなければダメというような風潮になりつつある。
(委員)
育成者権侵害物が関税定率法の対象になった場合、規制の対象となるのは問屋等ではなく輸入業者なのか。(事務局:その通りである)
すると、輸入後の流通によって店頭に並ぶものまで(侵害品でないことを)証明する必要はないのだから過度の負担だという話にはならないだろう。輸入業者は数社なので、ルールを決めればよい話だ。トレーサビリティーとは分けて考えて欲しい。該当するような業者は絞られるということ。
(委員)
輸入業者のことは分からないが、現実的には事業者間でどのようにやるかということを具体的に議論すればよいことで、ここで決める話でもないと思う。新たに法律による規制が入るという話になるとやはり心配になるということ。当然輸入業者としてすべき(守るべき)ことはあるかとは思うが。
(座長)
財務省との検討に当たり、不法行為がありそうだという時に、輸入業者に担保金を提供させるということもあり得るのか。とりあえず業者に輸入させておいて担保提供させるという方法を思いついたのだが、担保の提供を輸入業者がするということはあり得ないのか。
(事務局)
前回の本研究会で関税定率法の説明したが、職権によるものと申し立てによるものと2通り検討している。
ブランド(商標)の場合、申立者が担保を税関に対して積むことになっている。輸入者に損害が出た場合には、担保の中から輸入業者に支払われる。渋谷委員が言われた輸入業者が担保金を支払っておいて権利者に損害が出た場合に、そこから損害分を支払うというスキームは今は無いが、TRIPS協定においては輸入業者が担保金(解放金)を積むというシステムがある。
(委員)
この報告書では海外からの輸入品を取り押さえるいうところに非常にウェイトおかれ過ぎている。これは国際的に見て受け入れられるかを考えた場合に問題点があるのではないかと思う。もう少し「はじめに」で不法輸出の部分を強調して、そこから全体にニュアンスを滲ませた方が社会的に受け入れやすいのではないかと思う。
中国で会議をやった時に、生産地に行ったら日本人はずるいと言われた。それは、日本人が話を持ってきたから設備投資をしたのに、もう今では生産物を買ってくれない。日本人はほんとに信用できないということだった。
これは相手の中国だけが悪いのではなく、日本の商社などがコストダウンのために開発輸入など様々なことをやってきたその結果であり、副産物として違法農薬などのいろいろな問題も起きている。
収穫物の輸入にしても、知的財産権で押さえていくことは短期的には可能かと思うが、向こうでも品種改良をしており、すぐ似たような品種を作り出すことが出来るので、長続きはしないのではないか。やはり正々堂々やるべきである。
(委員)
今の御意見についてはもっともだと思う面があるが、現段階では育成者権を侵害したものを完全にストップさせるのではなく、育成者権をうまく執行するシステムを作ることが本来の考え方だと思う。それを水際でたとえ中国のものであっても、マレーシアのものであってもきちんとロイヤリティが払われ、輸入が行われるというシステムを作るということではないかと思う。
この考え方に沿って、当方も輸入業者と話し合いをしている。その時に問題となってくるのは、ロイヤリティーを払うのだから、どこで何を作って日本に入れてもいいのではないか、新しい品種をどんどん出してもらいたいと言われることだ。
もともと、UPOVに基づいた育成者権なので、マレーシアがUPOVに加入したり、中国がUPOV条約に基づいて国内法を強化してもらえたら、それぞれの国の種苗法に基づいた育成者権の行使をしていくことができる。今、本当の問題は、アジアの主な生産国において知的所有権というものが十分認識されておらず、そしてほとんどの国がUPOVにも加入していないため、その国内で育成者権の行使できないということ。
多少、保護主義的ではないかとも思うが、本報告書は我が国からの明確なメッセージという意味がある。アジア諸国についても、UPOVに加盟して国内法を整備してという環境整備を進めてほしいというメッセージである。育成者権がきちんと行使され、ロイヤリティを払って同じ土俵に乗って競争してもらいたい。現在は、同じ土俵に乗っていない状況で、収穫物だけ輸入されてくる状況なので基本的にはアジア諸国での制度整備を促進しないといけないという話である。
(委員)
考え方の基本は同じ。しかし、研究会報告案は輸入を禁止するというニュアンスが強すぎる。それぞれの相手国の見方もあることから誤解の無いようないような形で出した方が良いと思う。
(委員)
国内はきちっとしてきた。海外に持ち出されたものが現在問題になっている。ただ、やっているのは日本から来た人じゃないかという話が出てくる。生産委託等を海外で行う日本の企業に対してきちんと種苗法を守れというメッセージを報告書の中に入れれば、日本も気を付けるから相手国も気を付けて欲しいというようにバランスは取れるだろう。全体の基調としては輸入に傾くのは仕方ない。もちろん一方的に受け取られるような言い方は問題だが。
(委員)
確かにそうだが、中国などものすごい量作っており、輸入されるとかされないというレベルの話ではない。そこで表現を柔らかくするという話にはならない。国内でもきちっと(制度を)守るから国外でもきちっとしろという話だが、いずれアジアもこういうルールを守った上で攻めてくるだろうから、そうなるまできちっとすべきということかと思う。むしろ向こうの国の人は、専門の政府の人達でもなければ表現がきつくても意味が分からないのではないか。
(委員)
この報告書については大枠では良いと思う。ある程度輸入にアクセントを置くのはやむを得ないと思うのだが、第三者に見られたときに誤解を与えるのではないかと感じる箇所がある。現行では不法に輸入されるものには刑事罰がかけられないので、不法に輸入されるものに刑事罰を科すというように一般の人に受け取られるのではないか。許諾を得ない収穫物に対する国内での侵害対策は刑事罰ときいた。すると刑事罰は輸入もさることながら国内対策にもなる。「不法に収穫物に輸入販売等・・・」のところを直さないと刑事罰の対象は専ら輸入販売対策と受け取られてしまうのではないか。
(座長)
この点については、丁寧に表現すればすむことと思う。委員はこのままで良いと言うことか。
(委員)
業界の立場が違うから仕方ないことかと思う。そもそも、育成者権も分からない人が読めば表現についても分かるまい。海外の国をターゲットにしたものとは捉えられないだろう。
(委員)
海外における権利行使のための条件整備のところをもっと強調して書いていただきたい。今回の関税定率法における輸入品規制は短期的考え方であり、流通段階における多段階のチェックによる負担の問題や、DNA鑑定などによって水際で混乱が起きなくもない。それよりも、根本的長期的に解決する方法として、UPOVに各国が入って、厳格な種苗法を定め育種家にロイヤリティーをきちんと払うように整備がされれば日本への輸入品を関税段階でチェックする必要はない。ところが、それには大変長期的な視野が必要である。政府が予定しているUPOVアジア会合の開催やJICA植物育成者保護研修の実施等を通じ、最終的にアジア各国が、UPOVに入って、国内種苗法を整備してロイヤリティーを払うというシステム整備につながればよい話で、そうすればなにも水際でやる必要はない。
それは実際には、5年,10年,15年先となってしまうかもしれないので、今とりあえず何をすべきかということで関税定率法でチェックをしていこう、あくまでも2次的な対応としてやっていこうというものだと受け取っている。
当面短期的な対応を手当てし、並行して日本が長期的視野に立ってリーダーシップを取り、アジア各国に対して種苗法の整備を行っていくという方向性をうたっておけば、短期的に厳しい表現になっていても問題ないと思う。
(座長)
委員が言った件だが、我が国企業の海外進出や輸入業者等の行動について触れてないので書き加えてバランスを取るというのはどうか。
(委員)
あまり批判的なことばかりなので、バランスを取るならばということで言ったもの。相手国ばかりでなく我が方でも、いい人もいれば悪い人もいるということが分かってもらえれば良いと思う。
(委員)
日本から不法に種苗が出ていかない手当も必要ではないか。それは国内対策で、まさにそれは罰則強化と言うことになるのか。出て行っていった種苗が生産物となって入るから問題というのだから、まず出て行くものへの対策があると思う。
片方が手抜きではないかと思われないように、罰則の強化ということで輸入の際にも及ぶが国内へも及ぶというものになるのかと感じている。出口(輸入)だけではバランスを欠く。その辺を考えていくことが必要だと思う。
(委員)
誰が持ち出したかなど立証は不可能。契約上はいろいろ書いてあるが、花屋から買って持って行かれたら立証することは不可能。
(事務局)
出てくのが問題ということで輸出検査、輸出規制という方法もあるが、WTO関係で難しい面もある。法整備もさることながら周知をより行っていきたい。保護されていない国へ種苗を勝手に持ち出すことは違法であることを知らせていきたい。罰則は内外無差別である。輸入だけをねらい打ちにしたものではない。むしろ、関税定率法で水際措置をするに当たり、国内でもきちんと罰則があるということで海外に対しても説明しやすい。
(委員)
国内で、許諾料を含んだ正式な代金を払って買った種苗を海外に持っていって増殖されれば、農家なら自家増殖出来ると言うことで、許されてしまうのか。
(事務局)
その品種の保護がなされていない国へ持ち出す場合には育成者の許諾が必要となる。たとえ、国内で権利が消尽していても改めて育成者権者の許諾が必要である。
(座長)
報告書では、コピーする中国などが悪いと名前上がっているが、悪いのは輸入業者ではないか。その辺りのとり違いはないか。輸入業者は怪しいと思いながらも輸入してしまうなんてこともある。そのあたりを打ち出したらどうか。
(委員)
各国の農家を非難しているわけではない。ただ違法に作られたものが、輸入業者を頼って輸出されている。(相手国の)国内消費なら我が国の生産は痛手を受けないが、輸入するならきちんとしろということ。するとやはり業者に自覚してもらうこととなる。
(委員)
誰が悪いかという議論をこの場所で行うのは良いが、報告書へ載せるのはどうかと思う。
(座長)
報告書自体のトーンを模様替えしないといけないか。
(委員)
大筋は今までの議論でよい。若干の修正は必要かもしれないが全体の流れ、骨格は良い。
(委員)
10頁の上から4行目に「現行制度の下で」とあるが、「育成者権強化の立場から」というように修正してもらえないか。今回の目的は育成者権強化にあると思う。同じ知的財産でも著作権は、自分でコピーするのも私的利用のみに限定している。ところが、農家の自家増殖は、増殖された種苗から得られる収穫物が販売されており、利益を生じさせている。一般的に見ると私的利用とは違う。このあたりが育成者の権利が十分に守られていないところ。その辺りの根本的なところから見直すとの前提で検討しているのだから、現行制度に囚われる必要はない。
(事務局)
現在の制度でも、自家増殖制限の範囲を拡大できることになっている。自家増殖制限の話も、基本は育成者権の強化である。それを表記することは問題ないので、委員の間で議論して欲しい。
(座長)
当初この問題は入っていたのか。
(事務局)
委員からの提案にあった。各委員の了解が得られるのであれば入れる。
(委員)
今のやり方でも範囲を見直していくという方法はある。制度といっても法律とは限らない。
(座長)
自家増殖制限の範囲を指定しているのが省令ならば法律事項とは限らない。
(事務局)
まず、省令による自家増殖制限範囲の拡大が先。それから法律を考えるべきかと考える。
(委員)
現行の自家増殖制限品目の23品目は少ない。法律をいじるという考え方でこの検討が始まったのだから、別に一度に全部とは思わぬが段階的に進むような表現にすべき。
植物品種育成者権保護フォーラムの中でも検討を進めるが、今後フォーラムの方からも要望として出したい。
(事務局)
将来的には、法律を見直すこともあり得るが、当面、現行制度で範囲の拡大が出来ることでもあるので、育成者権の強化の立場からも「現行制度の下で」というのが一番良いと考えている。ただ表現は検討させてもらいたい。
(委員)
それで結構である。
育成者権を表示する際の統一されたマークが無いので、国内といわず世界統一で例えばUPOVで作ってもらえないか。文字でもデザインでも良い。
(事務局)
これまでの話では、各社とも表示しているとのことだが、この問題はフォーラムで取り上げてもらえばと思っている。まず、国内で統一してもらい、それからUPOVかと思う。いきなりUPOVとなると言葉の問題などがある。他国が必ずしも同じ認識を持っているとは思えない。
(委員)
マルCとかマルPなどは世界共通ではないか。これと同じように全世界共通の方がよい。
(委員)
国内でやっている分には問題なかろうが、種苗法に対しマルPは良いのか。
(事務局)
制度的に決めるとかいうものでなく、申し合わせで決まれば認知されるものだ。特許も国際的に取り決めがある訳ではない。
我々も世界的に統一されるよう協力したい。
(座長)
マルCやレコードのマルPは条約で決まっている。著作権の登録が必要な国があるので、そこで登録してなくても保護されるようマルCなどを付けている。
レコードに付いている、マルL(ローカル盤)、マルY(洋盤)は業者で決めている。種苗についてはどのレベルで決めるのかという問題があろうが、業界で決めるという形もある。
(座長)
本日重要な点が提起され議論された点としては、
1 5頁の「事業者に過度の負担とならないように配慮」について、この点具体的にはどうなるか踏 まえた上での表現が必要。
2 全体のスタンスとして、近隣諸国の非難ばかりとならぬよう、長期的対策や国内業者へ視線を向 ける。
3 自家繁殖は、事務局提案で了承
4 統一マークの推進
そのあたりかと思う。
いろいろな御意見踏まえ報告書を修正し、各委員への相談のうえまとめて研究会報告としたいが良いか。
(異議なしとの声)
それでは本日をもって本研究会は終了としたい。私自身にとっても有意義な研究会であった。第2回研究会において各委員に意見陳述してもらったことで議論が膨らんだ。お忙しい中ご参加いただき感謝する。
(事務局)
本日の各委員の御意見を踏まえ、2〜3週のうちに報告をとりまとめるようにしてきたい。
(以上)