第2回育成者権侵害対策研究会議事概要
平成14年10月17日(木)14:00〜16:20
農林水産省生産局第1会議室
1 農林水産省挨拶
2 資料説明(事務局)
・育成者権侵害対策研究会報告のとりまとめ方法について(案)
・「育成者権侵害対策研究会報告」骨子(たたき台)
・今後の育成者権侵害対策の検討について
3 各委員からの意見陳述
(委員)
本件については、食品業界の中でまだ議論しているわけではないので、個人的な考え方で申し上げる。
研究会報告骨子案のP1の下から6行目に「農業者、流通業者等の育成者権保護の認識が必ずしも十分でない場合がある」とあるが、必ずしも十分でない場合などと言い方を弱めずに、十分でないと言い切ればよいのではないか。やはり制度が知られていないということが守られない原因の一つである。
P2の罰則の強化については、収穫物段階まで拡げるのは良いが、加工品まで拡げるとなると、そもそも種苗法が種子・種苗の権利を守るところから出発しているのだから、際限がなくなってしまう。特に加工品については、加工品がまた別の加工品の原料になったりする。従って罰則の範囲は拡げても一次産品にとどめるべき。種苗と収穫物の侵害のレベルが同じかといえばやはり種苗の方がレベルが上なのだろう。
海外に不法に持ち出された種子から生産された野菜が輸入されてくることは問題だが、そもそも種子が不法に持ち出されること自体も問題ではないのか。収穫物輸入の段階だけで取り締まろうというのは本末転倒ではないか。水際規制の際には関係事業者に過度の負担を強いることにならないのか。DNA鑑定を全事業者に義務付けられたりすると困る。やはり侵害の蓋然性の高い場合に限って行うべきで、全て検査を義務付けするものではない。
かなりの量を輸入に頼っているという我が国の流通実態の障害とならないようにすべきで、あくまでも違法物件のチェックにとどめるべき。そういう意味で、制度を厳しくするのは良いが、制度を知らしめることにも力を入れて欲しい。中小企業など何も制度のことなど知らない。
野菜のトレーサビリティーと今回の話とどのように結びつくのか、あるいは結びつかないのか教えて欲しい。
(事務局)
トレーサビリティーにより種苗や収穫物の利用に関わった者が判明するので、侵害立証上大きな武器になりうる。ただし、表示制度ではなく種苗法によって侵害立証を容易にするために表示等を義務付ける可否については論議が必要と考える。
(委員)
前回の研究会を欠席したが、その折りの資料を見ると、知的財産大綱の中で諸制度をゼロから見直し云々と書いてある。そういう意味で事務局の説明したとおりで見直しを進めてもらいたい。ただし、今回の研究会は育成者権侵害強化が主流のように感じられるが、農家の自家増殖についても報告に入れて欲しい。平成10年の法改正の時に、自家増殖について関係者の話し合いが行われたが、その際に自家増殖の規程も入れてもらった。
骨子案2の実態面の3点目は言い方が複雑なのでもっとシンプルにした方がよい。
今後の検討についてのその他対策についてだが、情報提供は種苗会社以外の個人ブリーダーなど支援する意味で必要。相談窓口も同様。この相談窓口だが、農水省が窓口を直接行うというのは行政という立場のあり大変なことだ。ある程度業界団体にお願いした方が良い。同じく(2)の農業者等への普及啓発はまだ不十分なので強化を図るべき。
登録品種であることを示す統一したマークの表示があると、制度に関係ない人たちでも何かの規制がついているものだと思うもの。この点についてはぜひ実行して欲しい。
アジア地域のUPOV加盟への支援は絶対必要。そもそも欧米は契約にシビアだが、アジアは全体的に曖昧に処理してしまう。条約の趣旨を徹底するためにも加盟の促進をお願いしたい。
(委員)
10月7日に植物新品種保護戦略フォーラムが立ち上がった。事務局としてこの場を借りお礼申し上げる。以下、資料に沿わずに意見を申し上げたい。
1点は、法制度について骨子案に書いてあることは結構なこと。水際規制については、実行が難しい。ワシントン条約の際、税関で止めるためには詳細なマニュアルがないと不可能ということだった。これも抑止力としては働いてはいるが。
東南アジアの国でキクを作って輸入する際、業界団体が仲介して1本いくらというロイヤリティーを取った。実際的に侵害が行われている相手国に言っても無駄で、こういう実行面で権利行使した方が現実的ではないのか。
自家採種の規制はそれこそ実態に応じて考えればよい。我々が行ったアンケートでも規制を強化しろとの声はあった。
2点目としては、制度を守ってもらうこと。農家やJAなどの意識が十分ではない。バラのアーチング栽培など「なぜあんなものに特許が」と問題になったほどだ。全中を窓口にして、制度についてPRを行うべき。農政局、都道府県、普及所などでも意識は十分ではない。例えば、普及所でトマトの脇芽を挿して種苗にするなんてやっている。その他流通業界も業界団体を通じて大いにPRを行うべき。弁護士や弁理士も業界誌などを通じてPRして欲しい。
3点目、侵害に対する具体的対応だが、大会社は良いが、そうではない育成者権者が相談に駆け込むところが必要。それから、そういう相談をどのように処理したかということは他の事例にも影響することで大事なこと。やはり、侵害把握のための調査等に多少でも国が関与できないか。国も関心持ってやっているんだという姿勢を見せる効果は大きい。何らかの権限に基づく調査でなくても構わない。それから、裁判に至る以前での解決方法とか、マニュアルとか、まあ個人的なことで表に出ては困ることもあるかもしれないが、そういった事例集が是非とも必要。
4点目、事実面として、比較栽培試験、DNA鑑定を実施できる体制整備が必要。
5点目、国際関係はUPOVが基本だが、実際の関係は日中、日韓が中心と思うので、技術会合や審査当局会合等で向こうの指導者に意識を持ってもらうべき。それから、審査項目の国際基準も大切。海外の情報提供も大事なこと。
6点目、フォーラムの役割についてだが、相談窓口については是非とも設置すべき。マニュアル類については、権利化、契約、侵害対応等いろいろな種類のものを出すのが役目と考える。サービスとして侵害事例などのデータベースの集積が大切。役所ではやりづらい部分もあろうから、役所とは別のものを作るべきである。それから、権利者の声で意外に多いのが登録料納付の期限切れ。これに対し、運転免許更新のお知らせみたいに手紙1本だすなんていうサービスができないかと思う。いずれにせよ、フォーラムは資金もないことから、是非皆さんのご支援を頂かなければならない。
農産種苗法では品種の区別性の他に優良性が問われたが、種苗法になって区別性だけになった。海外では2段階になっており、登録したものの中から、ある程度評価の高いものはさらに別の登録のようなものが行われている。権利の設定とともに、良いものは広めるということも必要ではないか。例えばアメリカのAMSみたいに権威ある賞が必要。洋ランは国際基準があって、ラン展で賞を取るとラベルの品種名に続いて賞の種類、ランクを記載するようになっている。そういったものが必要なのではないか。農林水産大臣賞なんていっても国際的権威となると疑問だ。
(委員)
水際規制は実行が難しい。やはり対象品の認定がキーポイントとなろう。誰が、何時、どの段階で、どのようにということを明確にしていかないと実効性はない。
権利を強化した、意識高まったとはいっても、実際権利行使や警告は少ない。権利行使が行い難いネックがあるのではないか。権利行使の環境整備が大切で、品種識別ガイドラインの作成もその一環に位置付けられると考える。調停、仲裁、判定のための機関も必要である。権利行使を尊重するよう行政指導を行っても良いのではないか。
次に、国際的市場性のある品種については海外でも登録して権利行使を行うべき。アジアの未加盟各国にUPOV加盟を働きかけることが必要。とにかく制度だけでなく、権利行使できる環境整備を促進することが大切。
(委員)
前回欠席したが、アンケートの結果、27%侵害があるというのは大きい話だ。にもかかわらず対抗措置がとられていない。
比較栽培やDNA分析については重要なことで、我が国では紛争への弁護士の関与は少なく、裁判も少ない。従って判決もほとんどない状況。弁護士が関与して交渉するとなると当然、弁護士は紛争の結果どうなるかという見通しを立てるがその物差しとなるべき判例がない。
何故裁判に至る事例が少ないかというと、コストと時間かと思う。確かに裁判や栽培試験には時間がかかるがそうなると実効性はない。従って仮処分を大いに利用すればよい。その際にDNA分析は有効な手段と考える。
情報提供という点では、あちこちの裁判所には種苗法の本すらない状況。権利関係マニュアルを送ることも大切なことだ。また、海外の情報では、韓国における保護対象植物の種類なども入手して提供して欲しい。
水際規制だが、関税定率法21条に種苗法を追加することは賛成だが、同時に条件整備を充実させるべき。WTOの面からしても、輸入と国内流通の関係は等しくするべきである。
水際で交渉してロイヤリティーを払わせる方法があるというが、事前にちゃんと契約した人と事後契約の人との間に不平等があってはいけない。ヤリ得にならぬようにしなければならない。
相談窓口はやはり役所は難しい。フォーラム等民間の中でやるべき。弁護士もほとんど無知。当初は私どものように各種苗会社の顧問弁護士とその事務所の弁護士を使うなど、ある程度研修を積まないとほとんど役に立たない。弁護士には厳しい守秘義務があるから当事者の秘密は守られる。他の法律相談の規程等に従って体制を整備すればよい。制度、運用とも全体的方向さえ定まれば非常に前進だ。
(委員)
罰則の強化というのは我々が主張してきたことであり、非常に身の引き締まる思いだ。我々権利者も強力に権利行使を進めなければならない。そこで3点ほど申し上げたい。
1点目は、DNA分析についてだが、現時点では品種の同一性の判断については完全ではないということだ。種苗法では登録品種と明確に区分できない品種も権利は及ぶが、実際、栽培を続けていると、変異個体が出現するもので、DNA分析ではリジットに出るか否かは分からない。従って、技術が確立される前にDNA分析が活用されてしまうと権利の範囲を狭めることにならないかなど十分に精査する必要がある。侵害判定に当たって現状では特性による判断を優先させるべきと思うが、法的には特性による判断を優先させることなど明記されていないから混乱が起きはしないか。
水際での摘発に当たり判定は実際難しい。従って、名称表示や許諾済みであることを示すシールを貼るといったことをする必要がある。WTO違反とならぬよう、国内でシールを貼るようにする一方、輸入品もきちっとした表示をさせるなど共通のルール作り進めることが前提。関税での摘発は商標権侵害が一番多いというが、やはり名前の持つ意味は大きい。市場においてもブランドAと無名品種では倍半分の価格差が出ることすらある。名称の保護について法的にも強化してもらいたい。
3点目は水際規制の抑制効果について。侵害を詳細に判定するとなると比較栽培ということになるが、そこで2〜3年はかかることになる。その間の輸入の扱いはどうなるのか。紛争に入ったものも結論が出るまでは輸入ができるというような認識が業界に浸透すると困る。比較栽培をするという植物品種の特殊性からしてその間どのように侵害をストップさせるかが問題。
(委員)
刑事罰を追加するということは、業者にしてみれば重みが違う。是非収穫物についても対象となるよう検討して欲しい。収穫物段階での刑事罰については、他のUPOV加盟国ではどうなっているのか。
2点目は、水際対策についてだが、ヨーロッパ等ではトレードマークが取り締まりの対象となっている。ところが名前を変えて輸入されるというものが多い。バラの切り花品種は数年前までは200だったが、今は450品種に増えている。トレードマークだけでは処理できなくなっている。収穫物での取り締まりというとどのような立場で権利者が税関に入っていけるのかという問題がある。シールや許可書で区別しないとできないということもあろう。商標についてはあちこちの税関に取り締まりを依頼できるが、植物の場合どうやって税関での取締り段階で育成者が関与できるのか施行に当たり考えて欲しい。
個人の育成者について、相談窓口等、国がどれだけ保護していくのか。個人の場合、何でも自分でやれというのはやはり限界がある。といって会社は自分でやれ、個人は国が守るというのも不平等な話になるので、例えば個人は大きな会社に生産販売委託をすればよい。
民間ではなかなか全部の品種のDNAパターンを調べておくことは難しかろうが、売れそうな品種を選んでDNA分析ができるようにしておけばよい。我が方としてはとりあえずは比較栽培で同一性を確かめることになると考える。その栽培試験を独立行政法人でやってもらえないかと思っている。それから、その品物が確かに試験されたということの証明も大切。
PRについてだが、登録品種の表示マークなどメーカーによりバラバラ。マルRは商標、マルPはパテントで統一するといった動きを日本種苗協会あたりが音頭を取って対応してもらいたい。新聞でもPRになるような記事を載せようとすると金をくれということになってしまうが、やはりPRは何度も行わないとダメだ。行政指導して頂きPRして欲しい。
アジアについては、各国の事情もあろうが、日本をターゲットにするためにはこういう決まりがあるんだぞということを知って欲しい。
海外で種苗が増殖された場合、我が国の種苗法で差し止める事はできるのか。あるいは我が国に輸入された時点で権利が及ぶこととなるのか。
(委員)
罰則、水際対策について賛成者の立場から4点ほど申し上げたい。
一つ目に水際での具体的手法の検討を願いたい。DNA判定は必要となるが、判定の間違いで流通の混乱が生じないようにトレーサビィリティー的なことを考える。残留農薬等とともに必要な対策を。
二つ目に、罰則について防止効果があるというが生産・流通に混乱が生じないよう、生産者等に十分な情報提供をお願いしたい。
三つ目は、加工・調製品について検討対象としてもらいたい。餡など9月の畑作物価格決定の際にも問題になったが、加工品になると農業生産だけでなく国内の関連産業にまで影響が生ずることが懸念される。それから調整品についても前々から問題になっていた。
四つ目は、侵害判定に時間がかかるとの声。DNA分析のみで可とする事がいいのか問題はあろうが、いづれにせよ国内農業に混乱を来さないようにすべき。
(座長)
3点だけ申し上げたい。一つ目は、この報告書の視点について。違法な収穫物の流通をどうするかという点については、取り締まりの対象者はもちろん流通業者だが、一方で保護される側は、育成者はもちろんのこと農家にも及んでいるということ。間接的には農家も保護対象であるというあたりを表したらどうか。
二つ目は罰則について。収穫物の規程が分かり難く、民事は良いが、刑罰は罪刑法定主義でしっかり書いてないとダメ。種苗法第2条の利用の解釈を明確にするすることが必要。行政解釈しないと一歩も進まない。刑事のためにあえて民事の規程にこだわる必要はない。
刑事罰は、違反行為に故意がないと処分できないため、故意の立証を可能とするような方法を考える必要がある。何かのシール、マークが必要。あるいはDNAのマークをつけるなど。
三つ目は水際対策。収穫物は生鮮品であり、税関で間違えて差し止めてしまった場合、補償をどうするかが問題になる。申立者に担保の提供をさせるべきで、税関に責任を負わせると実効しないことになる。DNA分析の結果もぴったり一致し、ほとんど間違えがないという部分から差し止めを行えばよい。比較栽培まで持ち込まなくても済むようなものはDNA分析で判断するようにしないと機能しない。
同一性の判定について、時間がかかる上に難しくて、判定者によって見解が分かれるというようなことになると、刑事罰を科すのは適当ではないということになってしまう。そうなるとDNA分析はぴたり一致かほとんど一致のものに罰を科すべきということになる。
さて、再び十分な議論を進めていきたい。
(委員)
育成者権を加工品にまで拡げるという意見があったが、そもそも育成者権は種子・種苗の権利であり、加工品までとなると行き過ぎではないか。加工品からさらに別の加工品が生まれるなど加工品は際限がなく難しい。DNA分析も生鮮品に比べれば難しい。外国もほとんど加工品にまで権利は認めていないのではないか。
水際規制について、各国では実際どのようにやっているか分からないか。
(事務局)
米国ではITCという委員会が判定を行っている。欧州は我が国の他の知的財産権侵害品の税関での規制と同様で、申し立てを行い差し止めをしてもらうようになっている。
(委員)
水際規制については、いくらUPOV条約との整合性があったとしても、一方でWTOは輸入制限ということで独自の判断をすると思うが、そのあたりについて各国はどう判断して運用しているのか問題だ。
(事務局)
WTO上、知的財産権侵害品については輸入制限禁止の適用除外となっている。
(委員)
カスケイドの原則は、海外でどのように種苗に権利行使されたかが分かりにくいから、収穫物が輸入された段階では実際に種苗段階での権利行使の機会の有無を判断することが難しく、適用しにくい面もある。
(委員)
明らかに加工品で侵害があったときに、それでも看過するのはどうなのか。それから調整品にしても輸入後分離して使うという実態からすれば、これらを権利の範囲からはずすのはいかがかと思うが。
(委員)
餡など侵害判定の技術的問題は確かにあると思う。従って実態面では難しかろう。JAグループとしては国内の権利侵害対策をきちっとやってもらうことが大切だと思う。
(委員)
JAグループとしても品種登録については広報している。稲などは種子更新の段階できちんと権利行使されており、花きも共同出荷するものはロイヤリティーを払っている。海外から輸入される野菜は登録期限が切れているものが大半。基本的には我が方はそういう認識でいる。
(委員)
現行法で種苗は刑事罰の対象となっており、今回これを収穫物にも拡大しようとしているわけだが、一方、同一性判定の技術的問題という点では、収穫物段階よりも種苗段階の方がより難しいのではないか。そのより判定が難しい種苗に対して刑事罰が加えられているのに収穫物が対象にならないのはどうかと思ってしまう。収穫物段階なら、例えばキクなら2年のキャリアの私でも300〜400品種は分かる。侵害種苗よりも収穫物の方がわかりやすい。現行種苗法でも種苗に刑罰を科しているのだから、より判定しやすい収穫物が抜けているだけの話だと考える。
(委員)
水際規制も、実際は、何回も輸入されて「あやしい」という話になって、申し立てるものだろう。そこで判定だが、DNA分析で行うのか、すると変異をどう扱うのか等々、DNAに軸足を全て置いてしまって良いのかという話はあると思う。
(委員)
刑事罰を科すためには、故意犯であることを立証しなければならないが、それはほとんど不可能だ。これはDNA判定以前の問題である。やはり許諾済みのシールを貼らせるなどの工夫が必要だ。それから、例えば、海外で違法増殖が行われその収穫物が入ってくるというときに、そういう情報に対してはノーティスを与えておいて、「それでも知らなかった」というのは難しい状況にするとか。とにかくそう簡単に刑事罰というわけにはいかないものだ。
事実、これまでに種苗法で刑事罰の対象は1件もない。果樹(かつて刑事事件になりかけたりんご「やたか」の件)の時代とは違ってきたとはいえ、警察側の責任もありそう刑罰をかけられるものではない。されど威嚇効果はあるから、その辺は割り切りの問題かと思う。
(委員)
確かに、流通業者へ警告書を送っておいて、それを受け取りながら後から「知らなかった」とは言えなかろう。カタログや写真を同封してやればより言えなくなるだろう。それから、シールを貼っていないものは全て不正品だというような警告を出しておくのも良いと思うが。
(委員)
シールがないと違法というのは有効な手段だが、写真や形態の特徴に関する文書のみでは刑事罰の適用が可能なような故意の立証は難しい。
(委員)
だとすると現行法でもどうなのかという話になってしまう。「故意性の証明」という観点からいえば、種苗段階での違反取締りの方が収穫物よりもはるかに困難である。何故ならば、5cmの茎に葉っぱ3枚付いた種苗では品種の特定は極めて困難で、これを保有した農家はいくらでも「故意性がなかった」と言い逃れできる。収穫物では、品種名・品種特性が既に明確でこれを販売し経済的利益を得ようという「故意性が強い」。
農家は種苗法をザル法だというが、収穫物で立証が難しくてとなると種苗段階ではより難しいという話になる。品種判定も花の咲いた収穫物のほうが種苗に比べ、はるかに容易である。従い収穫物の故意性が立証困難ならば、現行の種苗に対する刑事罰を科した「種苗法」そのものに意味がないとなってしまい困る。国内の生産者など年寄りで難しい話は分からないなんていうことは多いが、収穫物を業として外国相手に扱うような話ともなれば、業者等が「全く知りませんでした」で刑事罰が及ばないということは問題だ。
(委員)
国内の規模の小さな農家に対し刑事罰を科すのは困難と思う。実際には国内において大規模に不正を行っている悪質業者を対象にすべきで、それすら難しい。だから外国について故意を立証するのは難しいが、非常に厳格な要件を決め、かつ、明確なものについてのみ科すことにすること。そして、故意を証明するための方策を育成者権者側で考える必要がある。
(委員)
故意を証明するための方策をとっておけば、2回目以降の不正は抑えられるということか。
(委員)
その通り。
(事務局)
権利侵害自体が刑事罰で全てかたづくものではない。それから、種苗段階での侵害判定となると、必ずしもその時点で結論を下すのではなく、栽培して判定するなどの方法がないわけではない。今回の話は収穫物段階での権利侵害が増えてきた中で、抑止効果という点と、育成者権者にも協力してもらい制度とそれ以外の部分を併せて運用していけば効果も上がろうということ。制度だけで何とかしようということではなく、少しでも改善しておこうということだ。
(委員)
自家増殖の制限について、何らかの形でとりまとめに入れてもらえればありがたい。
(事務局)
自家増殖については、自家増殖の制限についての契約などが慣行として定着したものは制度面で制限をかけることにしているが、定着していないものまで含めて全て制限をするということか。
(委員)
一つには、UPOV加盟国を見ても先進国では自家増殖の範囲は狭くなっている。一方、途上国では農家にできないような技術を使っているものが多い。そういうものを認めるのならば話は分かるのだが。
もう一つ、これまで農家で自家増殖が行われているものではなく、海外からの導入など農家が今まで自家増殖を行ってきていないようなそういう種類まで自家増殖が認められるのはおかしいということだ。
(座長)
自家増殖は、そのこと自体で一つの研究会のテーマになるほどの大問題だ。時間も来たので本日はこれで閉会したい。
4 閉会